ライフラインのへんてこ

こんにちは。へんてこ不動産調査室です。

当ブログは、筆者が過去に実際に取扱った、奇怪な土地形態、奇天烈な権利関係、不可思議な売却経緯をもった「へんてこ不動産」をプロの不動産屋の視点から紹介、解説していくブログです。

さて、今回の物件は・・・。

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築33年の木造中古住宅。気を付けるべきは建物の古さだけではない。

一昔前に建てられた古い住宅を中古物件として取り扱う際は少なからず注意が必要である。

特に木造住宅では築後30年以上経過しているような場合、内見時には問題なく見えても、後々細かく見ていくと建物の随所にガタがきていることに気付くことがよくある。古い建物を残して中古住宅として購入する場合は、目に見えない部分も含めてある程度のリフォームを前提に検討する必要があろう。

筆者のお客様もその辺はぬかりなく十分な余裕をもってリフォーム費用を見積もっていた。ところがどっこい、そんな想定の斜め上をいく問題が発生した物件があった。

自分好みにリノベーションを検討する顧客は意外と多い

物件は築33年の木造住宅である。売主であるA様は老夫婦で、息子夫婦が二世帯住宅を建て、そこに同居することになったので使わない家を売却するとの理由だった。丁寧に使われていたがさすがに33年経過しているだけあって、天井に雨漏りの形跡があったり、水周りにも経年劣化が見られた。上物付きの中古戸建として売るにはぎりぎりの状態である。ただ、建物を無視して土地として売却するには若干厳しい土地だったのである。

理由は道路からの高低差だ。地下車庫があり階段を上って玄関に入る造りだが、建替えとなると地下車庫部分もやり替える必要があり相当に費用がかかる。A様の希望金額で売却するためには、リフォームを前提にそのまま建物付きで購入検討してくれる顧客を見つける必要があったのである。

幸い顧客はすぐに現れた。建売住宅では満足できず、かといってハウスメーカーで一から建てるには費用がかかりすぎる、そこで中古住宅を自分好みにリノベーションしたいというニーズは一定数あるのである。早速内見してもらい、リフォームの見積もりを取って、いざ契約の準備という段になって、問題が発覚したのである。

いくつもの他人の土地を通るライフライン。どうしてこうなった!?

道路から水道管や下水管などを引き込む際、他人の敷地を通らなければならないケースがある。そもそも道路が私道だったり、敷地の形状によってどうしてもそうせざるをえない場合など、それほどめずらしいことではない。そういう際は、その土地の所有者との間で土地の使用及び引き込み工事やメンテナンス時に土地を掘削させてもらう承諾を予め取っておく、というのが現代の不動産取引におけるセオリーになっている。

ところが、この物件は少し事情が違った。

上の図を見て頂きたい。

A・B・C・D様の4軒は公道に接するA様・B様の提供する私道を通って玄関に入る形状になっており、恐らくA・B・C・D様の4軒は同時期に区画割りされたことが想像できる。D様の敷地は西側の公道にも接しているのだが、実は西側の道路は高くなっており、D様との敷地とはかなりの高低差がある。つまりこの辺り一帯は東から西に行くに連れ敷地が高くなっているのである。こうした傾斜があることで、ライフラインの取り方にも影響が出る。特に下水は高いところから低いところへ流す必要があり、その逆はほぼ不可能である。そうした事情からE様までも含めた5軒のお宅で互いに敷地を提供し合いながら恐ろしく複雑に絡み合ったライフラインを構築することとなってしまった。

5軒の土地にライフラインが迷路のように絡み合う

もはや何がどこに繋がっているのか判読するだけでも嫌気がするぐらいだが、これがすべてではない。あくまでもA様の敷地に絡む管のみを記載しており、5軒すべてに絡む管を記載するとなるともはや判読できるレベルではない。

なぜこのような複雑な繋げ方になってしまったのか。はっきりした理由は分からないが、恐らくそれぞれが家を建築する際、新たにライフラインを引き直すことをせず、既存のライフラインを活かして繋げていった結果、複雑化が進行していったのではないかと思われる。

そして驚いたことに、5軒ともがライフラインのための敷地の使用・掘削承諾はおろか、私道部分の通行承諾すら結んでいなかった。

当ブログの読者は既にご存じの通り、他人の敷地を通らないと公道に出られない土地のことを袋地(ふくろじ)というが、前回の記事でも取り上げたように、民法上他人の敷地を通る権利は認められている。しかし通常は他人の敷地を通行することの承諾を結んでおくことが一般的である。上の図では少なくともC様は袋地である。加えてD様も西側公道に接しているとはいえ出入りはできず、東側公道に出るしかないため実質的に袋地である。したがってこの2軒のお宅は“無断で“私道部分を日常的に通行しているのが現状である。

E様だけは西側公道側に玄関があり出入りできる。だが図にある通り雨水管はA様の敷地を経由した後、他の3名の敷地をすべて通って東側公道へと繋がっており、しかも誰の承諾も得ていないことになる。

複雑に絡み合った糸をほどく方法はあるか

信じ難いことだが、持ちつ持たれつお互い様と言うことで今まで何の対処もされてこなかったのである。

問題は誰かの敷地内で管にトラブルが生じた場合だろう。仮にB様の敷地内で給水管が漏水したとする。するとA様は水道が出ない為、水道局に漏水の修理を依頼する。水道局はB様の敷地を掘り起こすのにB様の許可がないと工事できない。B様の承諾をもらって調査したところ給水管を交換する必要が出たとする。そこで今度はC様、D様にも許可をもらって交換工事をする。この間、A様は水道が使えないのである。スムーズに全員の承諾が取れれば良いが、誰かが長期不在にしていたらその時点でアウトだ。

このような綱渡り状態を解消する方法はないのか。手っ取り早いのはこの辺り一帯をまとめて再開発することだが、低層住宅街であるがゆえにハードルが高い。せめて一軒ずつでも建替える際には既存の管を再利用するのではなく、シンプルな形状になるよう一から引き込み直していく工事が必要である。

とはいえC様、D様についてはどうあっても私道部分を通らなくてはならない。そこで私道部分の使用と掘削の覚書を結んでおき、何か不測の事態の場合もその都度相手の許可を取るのではなく、予め取り決めをしておくことが重要である。

時間をかけてほどいていくしかない

A様を含め5軒を回って現状を伝え、いずれ大きな問題になりかねないこと、しかし一気に解消することはできないため少しずつ絡んだ糸を解していくしかないと説明した。対処法としてまずはA様の敷地に関して、きちんと権利関係を整理した上で売買することにした。権利関係の整理とは以下の合意を他の4軒の所有者それぞれと結んでおくことである。

  • A様の持つ私道部分を他の3軒(B様、C様、D様)の所有者が通行使用することを承諾する旨の合意。※この場合E様は除いてよい。
  • それぞれが使用する、又は共有のライフラインが相互に敷地をまたいで通過していることを明記し、メンテナンスの際には敷地を掘削することを互いに予め承諾する旨の合意。
  • 将来、建物を建て替える際にはこれらの越境物を解消し、自身の敷地内において引き込みをし直すことの合意。(但し、私道部分においては許容する)
  • そして最後に、第三者に所有地を譲渡する場合も、これらの合意を継承すること。

以上の4点を覚書としてまとめ、A様と各4軒とでそれぞれ取り交わしたのである。

複雑化すればするほど解消に費用がかかる

購入を検討していた顧客には幸いなんとか理解してもらえた。そして今回はリノベーションを施すのであって建て替えではないのだが、自身が使う部分だけでもこの際スッキリできればと引き込みし直す費用を見積もってみた。まずは共有管から自身の土地への枝部分を縁切りして既存の管を撤去し、公道から引き込みし直す工事である。

ところが想像以上に費用がかさむことが判明した。狭い敷地に複雑に絡み合った管を傷つけずに掘り起こし、さらに既存の建物に合わせて管を配置する必要がある等、技術的にも難易度が高かったのである。当然、当初の予算には入れていない追加費用である。悩んだ末にやむなく一旦既存の管を使う事にし、やりかえは将来の建て替え時に持ち越すこととなってしまった。

こうした例はまだまだある

今までもこうしたことの繰り返しだったのであろう。今更やりかえるには費用がかかりすぎるので、とりあえずは使える管に繋いでおこうという発想である。5軒すべてが建て替えして、糸がきれいにほどけるには恐らく数十年という歳月がかかるはずである。そして今回は5軒で済んでいると言えるかもしれない。こうした事例は探せば数えきれないほど出てくるはずで、もっとやっかいで複雑な迷路もまだまだあると思われる。

目に見えない箇所であるがゆえに後回しにされがちだが、ライフライン=命綱の言葉通り、住宅においては欠かせない設備である。しっかりと確認した上で検討を進められたい。

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この記事を書いた人

『へんてこ不動産調査室』室長。
不動産会社勤務の現役営業マンであり、へんてこ不動産コレクター。
全国のへんてこ不動産情報を収集、調査する活動を行っている。

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