ペット規約のへんてこ

こんにちは。へんてこ不動産調査室です。

当ブログは、筆者が過去に実際に取扱った、奇怪な土地形態、奇天烈な権利関係、不可思議な売却経緯をもった「へんてこ不動産」をプロの不動産屋の視点から紹介、解説していくブログです。

さて、今回の物件は・・・。

目次

マンションのペット問題

今回はマンションにありがちなペット問題を取り上げたい。

一口にペット問題といってもいろいろあり、マンション内で禁止されているペットを内緒で飼っていたり、ペット可のマンションでも住人のマナーが守られておらず居住者間のトラブルに発展するケース、匂いや鳴き声などに悩まされてしまうケースなど様々である。今でこそペットの飼育が一般化しているが、そもそも一昔前のマンションでは、ペットの飼育を想定したルールを設けているマンション自体が少なく、はじめからルールが決められていないか、規約として定められていたとしても非常にあいまいかつごく簡単な表現規定されているに過ぎないといったマンションがほとんどであった。

いい加減なペットに関する規約

ごく最近の新しいマンションを除き、中古マンションの仲介の経験がある人間であれば一度は必ず見たことのある、よくありがちなペットに関する規約の表現がある。「他の居住者に迷惑を及ぼす恐れのある動物の飼育は禁止」という、もはや定型文といっても良い決まり文言だ。ただこれだけでは禁止している動物の範囲が非常にあいまいで、例えば熱帯魚などの観賞用魚類や鳴くことのない爬虫類のような動物ならいいのかといった疑義が生じてくる。

こうしたあいまいなルールしかない場合、仮に居住者がどの種類のペットはダメで、あるいはどの種類なら飼っていいのかを突き詰めようとすると、仲介した不動産業者もマンションの管理会社も規約に書いてある以上のことは答えられないという結論になる。そこで解決方法としては管理組合の理事会や総会に議題として上げ、マンション全体で話し合うという方法がある。組合全体で何らかの結論を出し新たなルールを決めるのだ。このように実情に合わせたルールの見直しを行うマンションも少しづつ増えてきているようだ。

しかしだからといってやみくもに細かく細分化して規定していけばいいというものでもないであろう。様々な種類のペットが普及していく中で、すべてのペットに対してリスクを想定することなど非現実的だ。多くの人間が集まる集合住宅の中で、ますます多様化する生活スタイルを網羅するルールを作ることは容易ではない。

以下、筆者が遭遇したちょっと珍しいケースをいくつか紹介していきたい。

ケースⅠ 犬は何匹飼ってもいいが猫は絶対にダメなマンション

猫を2匹飼っているという顧客が中古マンションを探しに来た。予算の兼ね合いと立地条件からなかなかペット可のマンションがヒットせず、やっとの思いで見つけた古いが室内をリフォームされたマンションがあった。ペットもOKであることを売主に確認し、早速見学してもらうと大変気に入った様子で、すぐに申込みという流れになったのである。

そこで契約準備のために管理会社に管理規約を取り寄せると少し気になることがあった。ペットに関する規定が「観賞用の魚類、小鳥及び他の居住者に迷惑を及ぼさない小型の室内犬等以外の動物を飼うことは禁止」という内容のみであり、頭数についての決まりがなかったのである。

売主に聞いてみたところ特に決まりがないので2匹飼っても問題ないのではないかという見解だったが、売主自体はペットを飼ったことがなかったため、念のために管理会社へ問い合わせることにした。というのもこの買主は猫を2匹飼えるというのが家探しの第一条件だったからである。

管理組合の理事長へ直談判

管理会社の担当はあまり要領を得なかった。前任者から引き継いだばかりという状態で細かい点が判然としない。

ちなみに、不動産業者がそのマンションの管理状況の詳細を知りたい場合、管理会社へ調査報告書という書面形式で回答をもらうことができる。有料ではあるが、管理費や修繕積立金の滞納の有無や現在の積立総額、駐車場や駐輪場の空き状況や過去の修繕履歴なども把握できるので、契約前などの大事なタイミングで調査依頼をかけるのがセオリーである。ところが、調査報告書にもペットに関する項目は「規約有」という以外、詳細が不明であった。

そこで管理組合の理事長に直接確認してもらうことにしたのだが、理事長からの回答は「規約に書いてある通り、頭数の制限はないので何匹飼っても構わない。但し猫は記載がないため不可である。」というものだった。

その場にいた全員が意外の感に打たれた。規約では小型の室内犬等は可のはずであり、そこに猫が含まれないのはなぜかと訊いても、記載がないからの一点張りでらちが明かない。

理事会で話し合うも驚きの結論に

犬はよくて猫がダメな理由がない。

かくいう筆者も猫を飼っている身として納得がいかず、理事会の議題として上げてもらい理事会で話し合ってもらうよう要求した。後日、月一回の理事会が開かれペットに関するルールが話し合われた結果、正式に猫を飼育不可とするという驚きの結論となった。さらにびっくりしたことに、今まで特別猫を禁止してきたわけではないため、これを機に全住戸にそのような通達を行い、現状猫を飼っている住戸があった場合も周知を図っていくという。なんとも強引な猫の追い出し作戦である。

区分所有法という壁

しかし、実際に規約を変更するにはかなり高いハードルがある。建物の区分所有等に関する法律というものがあり、管理規約を新しく定めたり内容を変更する場合、議決権の4分の3以上の決議が必要となる。つまり理事会で結論が出たとはいえ、年一回の総会で所有者の賛成が4分の3以上取れなければ変更はできない決まりなのだ。戸数が多いマンションほどハードルが高くなるわけで、このマンションは80戸ほどの中規模マンションだったので、単純計算すれば60世帯以上の賛成が必要である。

ただ、今回の買主に事の決着が着くまで待ってもらうわけにはいかなかった。経緯を説明し購入を諦めてもらう他なかったが、この時はむしろ契約前に分かったことで余計なトラブルを回避できたといえよう。契約後にこのような話が持ち上がったとしたら、考えるだけでも気が滅入ってしまう。

しかしながら、そうまでして猫を不可にする理由は最後まで分からなかった。これはあくまで筆者の想像だが、理事長1人が単に極度の猫嫌いで強硬に話を進めたのではないかと勝手に思っている。

ケースⅡ ペット不可のマンションで密かに犬を飼った結果、恐ろしいトラブルに

次は筆者が実際にトラブルに遭遇したケースである。

ある女性の顧客が筆者の販売担当していた中古マンションの一室を見学に来た。聞けば近所の賃貸に住んでおり、急いで退去しなければならないのだという。子供の学区の兼ね合いでエリアが絞られており候補の物件がこのマンションしかなく、とにかく急いでいる為すぐに購入したいという。

部屋は気に入っている様子で、キャッシュで購入するというから、こちらに断る理由はない。とんとん拍子で契約に向けた話を進めていたが、所々どうもしっくりこない。実際に名義人となり資金を出すのは別の身内であり、本人はその人物から借りる形で住む計画であるというのである。それ自体はよくあることで、きちんと名義人の身分確認が取れれば問題ないのだが、どことなく急いで引っ越しする理由を言いたがらないのである。探りを入れてもなんとなく濁されてしまう。とはいえ引っ越す理由がどうあれ、こちらとしては正しく手続きを踏んでもらえれば結構なのである。

極力早く入居できる段取りを組み契約を締結した。身内と呼ばれる人物も蓋を開けてみれば別居している夫であり、直接会うことが出来た。そしてこの夫から、夫婦がすでに離婚協議中であることを聞いた。そこでようやく、今までなんとなく濁されていた理由も納得できたのである。

無事に引渡しが完了。ところが犬の鳴き声がする・・・

無事に引渡しが終わってほどなくしてから、マンションの管理会社から連絡がきた。「このマンションはペット禁止だが、新しく入居した住戸から犬の鳴き声がするという苦情が届いている。何か知らないか」というものだった。寝耳に水の話だった。当然ペット禁止であることは顧客本人(つまり入居者)に説明済みであり、所有者である夫には重要事項説明に署名捺印ももらっている。少なくともこちらに落ち度がないことは明白だったが、この一報を聞いた時、初めて物件を見に来た際に顧客の女性と交わしたある会話を思い出し、胸騒ぎを覚えた。

顧客がペット不可であることに触れ、万が一内緒で飼っていることがバレたらどうなるのかと聞いてきたので、当マンションは居住者のルール意識が高く、実は以前にも内緒で犬を飼っている住人が見つかり、管理組合で話し合った結果、退去の勧告を行い、最終的にその住人は住戸を売却し出ていくことになったという実例を話した。その時はそれ以上この話題は続かなかったのだが、今になって思えばこの質問の意図が理解できる。

すぐに顧客へ連絡したが、それ以降電話が繋がることはなかった。

管理組合による退去勧告

管理組合は入居者に対してあくまで規約の順守を要求し、従わない場合は退去の勧告も辞さない構えだった。果たして、管理会社の調査によって2匹の犬がいることが判明した。入居者はもとより、所有者である夫に対しても通達を出すという。

夫の方はというと、離婚協議中ということもあり担当の弁護士に相談した上、筆者とも弁護士を通してしか連絡を取らない旨の通知が来た。こうなると、こちらも会社の顧問弁護士に任せるほかなく、その後弁護士同士のやり取りでこちらに非がないことは確認されたが、それ以上のことは分からなくなってしまった。

かなり経ってから、筆者の顧客はすでに退去し、物件の所有者も変わっていることを知った。

エピローグ

これも随分後になって管理会社の担当者から聞いたのであるが、この顧客は以前に別の物件でも同じようなトラブルを起こしていたようだと教えてくれた。ペット不可の賃貸でペットを飼っているのがバレて、退去させられたというのである。それを聞いた時、すべての線が繋がった気がした。初めて見学に来た際、急いで引っ越す理由を言いたがらなかったのは、そういう訳だったのかもしれない。確証はないが、そう思うとしっくりくる。気がかりなのは夫の方だが、知っていながら契約したのか、全く知らなかったのか、今となっては分からない。

いずれにしても、喜んで住んでもらうことができなかったのは不動産屋としての筆者の汚点である。

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この記事を書いた人

『へんてこ不動産調査室』室長。
不動産会社勤務の現役営業マンであり、へんてこ不動産コレクター。
全国のへんてこ不動産情報を収集、調査する活動を行っている。

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