住宅ローンのへんてこ①

こんにちは。へんてこ不動産調査室です。

当ブログは、筆者が過去に実際に取扱った、奇怪な土地形態、奇天烈な権利関係、不可思議な売却経緯をもった「へんてこ不動産」をプロの不動産屋の視点から紹介、解説していくブログです。

さて、今回は・・・。

目次

史上空前の低金利時代。住宅ローンは人々の味方か、人類を蝕む罠か。

「今は低金利だから家の買い時である」という営業トークは真っ赤な嘘である。

金利が低いのは景気が悪いからである。言い方を変えれば、景気を良くするために金利をあえて低く設定している。景気が悪いとは物の価値に対してお金の価値が高いことだ。給料が上がらないからみんなお金を貯め込むばかりで使いたがらない。景気が上がって金利が高くなった時には、収入もそれなりに上がっているはずなのである。

バブルの時代、金利が今の何倍も高かったにも関わらず家が売れたのはそれだけ収入が高かった(あるいは高くなる見込みがあった)からだ。景気が悪い時に安いものを買うのと、景気が良い時に高いものを買うのとでは、家計にかかる負荷は同じ理屈である。

低金利という言葉の幻想

低金利で有利になるケースは、低い金利でローンを組み、その後景気が上昇した場合である。しかも変動型ではなく固定プランで低金利を維持し続けた場合だ。

ところがバブルが崩壊して以降、30年以上日本の金利は下がり続けている。長年これ以上金利の下がる余地はないと言われていたにも関わらず、2016年には日銀の貸付金利をマイナスにするという前代未聞の金融政策まで打ち出されたほどだ。今後景気が上向くかどうかなどもはや誰にも分からないのである。

ローンの借り換え

説明するまでもなく、景気の良い時代に高い金利で固定型のローンを組み、その後景気が下がっているにも関わらず高い利息を払い続けなければならないとしたら、もはや悪夢だ。高い利息を払ったまま収入が下がり続ければ、いつか破綻してしまう。

しかし、そうした問題の解決策として今ではローンの借り換えが可能だ。多少の手数料はかかってもほとんどのケースで金利の低いローン商品に乗り換えることができるのである。

度々バブルの話を持ち出すようだが、バブル絶頂時、住宅ローンの金利は5~7%であった。それだけ高い金利で借りた直後、バブルがはじけ一気に景気が後退したときに問題となったのは、借り換えしようにも土地の価値が半分以下になってしまい、ローンの残債と貸付できる金額が全く合わなくなってしまったことだ。急激すぎる景気転換に払う側も貸す側も対応できず、収入は下がっているのに高い利息のまま払い続けるしかないといったそれこそ悪夢のようなケースが続出した。結果的にそれらが不良債権として銀行をさらに圧迫していくのであるが、こうしたケースは稀であり、あくまで例外的な事例である。

そもそも家の買い時とは何か

「家の買い時」という考え方自体が、不動産屋がでっち上げた都市伝説である。「去年と比べ金利がお得」「地価上昇のきざし」「○○ポイントが拡大」等、謳い文句は様々だが、どれもごく短期的な目線ではやし立てているにすぎない。投機目的で短期間に処分することを前提に考えるならまだしも、長年住む家として住宅購入を検討する際に「買い時かどうか」という比較はあまり意味がない。10年20年という長期的な視点で見れば今買うのが得かどうかなど神のみぞ知るところなのである。重要なのは「今必要かどうか」であり、目先の損得に気を揉むよりも、適正な住宅を適正な価格で買うことに心を配った方がよほど賢いといえよう。

住宅ローン狂騒曲

筆者のもとにも低金利の謳い文句に釣られて購入の相談に来るお客様は少なくない。そうした中には、本来購入すべきタイミングでないお客様もいるのだが、これを見極めるにはある程度経験が要る。ここからは筆者が若手時代に経験したあるお客様を紹介しよう。

N様という若い男性が一人で来店していた。現在は一人暮らしだが、お付き合いしている女性と結婚することになり新居を探しているという。当初は賃貸で借りることを検討したが、広めの部屋となると家賃もそこそこする上、今は低金利だからローンを組んで中古マンションを購入しても月々の返済額は家賃と変わらない、というのが購入動機であった。N様とはたまたま同い年であり、すぐに打ち解けていろいろな物件をご案内した。彼女は九州の実家在住のためなかなか一緒に見学に来ることができないとのことで、毎回N様が一人で見学に来た。

要注意のパターン

実はこういうケースは要注意なのである。当事者不在のまま不用意に話を進めてしまうと、後からどんでん返しに合うというパターンはよくある。婚約者の意向がどこまで反映されているのかしっかり掴んでおくことが鍵なのであるが、N様は土地勘のない彼女から全権を委任されていると強気であった。N様の地元にほど近い場所で3LDKの条件に合う物件が見つかり、いよいよ資金計画を相談する段になっても彼女が登場しないことに筆者は不安を感じ始め、一度彼女にも物件を見てもらうよう勧めた。だが、彼女には物件の写真を見せておりローンを組むのはあくまで自分なのであるから心配には及ばない、早々に契約の段取りを進めてほしいというのである。

融資の壁

筆者が彼女に物件を見に来てもらえるよう頼んだのには理由がある。N様は最近転職して間もなく、ローンを組むには婚約者の収入と合算して審査にかける必要があった。彼女の職場は全国に支店を持つ大手メーカーであり、結婚を機に新居の近くの支店へ異動できるとの話だったのである。N様の言うとおり名義人はあくまでN様であるものの、審査に加わる以上、彼女の協力が不可欠なのである。

婚約中のカップルがローンを組む場合、各銀行によって条件が付く場合がある。最も一般的なのは銀行とのローン契約までに入籍を済ませるのが融資の条件になるケースだ。都市銀行などではほとんどがこうした制約が付くようである。ところがN様の入籍のタイミングは決まっておらず、両家の両親とも相談が必要になるため近々には決められないという。そこで入籍が条件にならない銀行を探して仮審査にかけることにした。地方銀行の中にはそうした融通を利かせて対応してくれる銀行があった。彼女の記入が必要な書類は郵送することにして、契約の準備を進めることになった。

契約後に婚約者の父親が激怒

今ではローン審査もネット上での手続きが当たり前になりつつあるが、10年以上昔の話である。こうした書類のやり取りにも時間がかかったものだが、無事に仮審査は通過し物件の契約が完了した。

ところが契約後に行うローンの正式審査で問題が勃発した。仮審査を行った銀行では入籍を融資の条件にしない代わりに、婚約証明書の提出が必須条件だった。いわゆる当人同士が婚約していることを証明する書類なのだが、彼女の親にサインをもらう必要があったのである。N様に書類が必要なことは説明してあったが、相手の両親にそれが伝わっていなかった。それどころか彼女の親は若いカップルがマンションを購入しようとしていることをこの時点まで知らなかったのである。娘の話す良いマンションが見つかったという話も、この両親は賃貸で借りるものとばかり思って聞いていたようである。

驚いた彼女の父親は憤慨した。こちらにろくに相談もせず、ましてや娘の収入を当てにして家を買おうなどと勝手すぎるというわけである。急遽、彼女が両親とともに上京することになり、両家の親を交えて家族会議が開かれることとなった。その際、物件の説明も必要になるだろうからと筆者も同席するようN様から頼まれた。

紛糾する家族会議

N様の実家で話し合いの場が設けられた。彼女の父親はいかにも堅物の九州男児という印象で、なぜ焦って家を購入する必要があるのか、まずは賃貸でも借りてつましく生活をスタートすべきだと若い二人を問い詰め始めた。始まる前は意気込んでいたN様も、いざ彼女の父親を前にすると声が低くなりがちである。

筆者はといえば、懸念していた予想が当たって焦っていた。なんとか彼女の父親をなだめてこの場を納めなくてはならない。幸いN様の両親はマンション購入に前向きで、我々の援護射撃に回ってくれた。実家の近くに子供世帯が来てくれれば何かと安心という想いがあったようである。

都内の住宅事情やローンの金利情勢などを必死に訴えるものの効果は薄く、会議はだんだんと住宅の話題を逸れはじめ、彼女の父親がN様の転職間もない身の上をあげつらい、N様が激高して席を立ったところで物別れに終わってしまった。

婚約破棄!?

筆者はこの日、N様の婚約者とも初めて対面したのであるが、彼女は始終物静かであまりしゃべらなかった。上京するまでの間によほど父親から言われたのかもしれない。

後日N様から連絡があり、婚約証明書のサインはもらえそうにない、それどころか婚約自体取りやめになるかもしれないという。N様自身、初めから向こうの両親はN様に良い印象を持っていないと感じていたようだ。N様いわく、学歴の良い彼女は収入も高く安定した会社に勤めており、彼女と比べて釣り合わない自分は気に入られていないのだという。N様が転職を決意した理由もそうした想いからだったと打ち明けてくれた。

話を聞きながら同情を禁じえず、説得の力になれなかったことを詫びた上で、今後どうしたいか尋ねると、意外にも住宅の購入は諦めたくないという。なんとか今の自分一人の力でローンが組める銀行はないか探してほしいと頼まれた。

フラット35という選択

勤続が半年未満でローンが組める銀行は限られるが、唯一フラット35という選択肢が残っていた。フラット35とは住宅金融支援機構が取り扱うローン商品であるが、民間の金融機関と比べて審査基準が緩い代わりに長期固定金利しか商品がなく、変動金利や短期の固定金利と比べて金利が高くなる。返済額も当初の予定より高くなるが、それでもN様は審査が通る可能性があるならチャレンジしたいと言った。

契約を履行させることは仲介業者としての責任である。ローンを組める可能性が残されているなら、とことんまで突き詰めるべきである。しかしN様がこのままマンションを購入する意味は果たしてあるのだろうか。まだ婚約の破談が決まったわけではないが、筆者にはN様の選択が半ば自暴自棄の無謀な選択に思えて仕方なかった。売主に対して事情を話せば、手付金が返ってくる可能性も充分にある。きちんと整理がついてから、改めて購入を考えても遅くないのではないか。

そう思いながらも、買主の希望に背くわけにはいかない。果たして審査は無事に通過した。当時のフラット35の金利は今よりも高めの設定であったので、N様一人の収入から考えればギリギリの支払額である。しかし数年間返済を続けて勤続年数が3年以上経てば、もっと金利条件の良い銀行へ借り換えするという選択肢もありうる。それまではなんとか頑張るしかない、とN様は頷いた。

エピローグ

物件引き渡しの日、N様の口から感謝の言葉とともに、婚約が正式に破談になったことを聞いた。後悔はしていないと話してくれたが、今でもN様のことを思い出すと、果たしてあのとき本当に購入する必要があったのかどうか、筆者にはわからない。これは筆者の想像だが、N様が住宅の購入にこだわったのは、相手を見返すつもりで自分の甲斐性を見せたかったのだと思う。結果的にその選択が正しかったのかどうか、それは誰にもわからないが、数年後、N様の購入した部屋が売りに出ているのを人づてに聞いた。

なお、住宅ローンについては今後の記事でも度々取り上げる機会が出てくると思われる。

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この記事を書いた人

『へんてこ不動産調査室』室長。
不動産会社勤務の現役営業マンであり、へんてこ不動産コレクター。
全国のへんてこ不動産情報を収集、調査する活動を行っている。

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