こんにちは。へんてこ不動産調査室です。
当ブログは、筆者が過去に実際に取扱った、奇怪な土地形態、奇天烈な権利関係、不可思議な売却経緯をもった「へんてこ不動産」をプロの不動産屋の視点から紹介、解説していくブログです。
さて、今回は・・・。
中古物件の価値とは
日本人は新しいものをむやみに有り難がる傾向があると言われている。住宅にしろ車にしろ時計やブランド品にしろ、よほど希少性の高いものでない限りは基本的に新品の方が中古品に比べて価値が高い。当然のことのようにも思えるが、こと住宅に関してはそうでない地域も多い。特に欧州では新築物件よりも中古物件の方が好んで取引される傾向が強いようだ。古い家ほど価値が高く、外観をなるべく変えないように内装だけを繰り返し直しながら人が住んでいく。築数百年を超えるという建物もざらで、中世の頃の街並みを今に残している都市も珍しくない。
日本でも古民家ブームなるものが定期的に話題にはなるが、それほど大きな価値転換には至っていない。地震や台風などの災害の多い地域性という理由もあろうが、どうもそれだけではないようである。新しい文化や価値観に柔軟な反面、古いものへのこだわりや執着が薄く、消費することの方に価値を見出しやすい日本人の国民性によるものかもしれない。
リノベーション物件の台頭
とはいえ国内の中古住宅市場においても近年リノベーション物件が定着してきたと言えるのではないだろうか。これまで中古物件といえば、購入後に自分でリフォームを施す必要があり、ある程度築年数の経過した物件の場合は直す個所もそれだけ多くなる。このリフォーム工程こそ欧米の住宅事情の神髄なわけだが、日本においてはハードルと考えられがちであった。
肌感覚ではあるが、筆者がこの業界に入った頃は、リノベーション物件の割合は中古市場全体の恐らく5%に満たなかったと思われる。それから20年で今や中古市場の3割が買取再販物件として販売されている(矢野経済研究所調べ)。今後日本の人口が減っていく中で、残された住宅ストック数を考えれば今後ますます需要が増えていくことは間違いない。
中古物件の最大のリスク「瑕疵」
中古住宅の取り扱いが難しい点は、物件の全ての状況を把握して購入できる訳ではないという点だろう。確認できるのは外から見える部分だけで、柱の中や屋根、基礎の内部がどうなっているのか全てを事前に確認することは難しい。これは中古車等でも事情は同じだ。購入前にエンジン内部の部品を分解して一つ一つ調べることができないように、すでにある家の柱や梁の一本一本を隅々まで調べることはできない。
こうした表面化していない不具合を、目に見えない欠陥という意味で「隠れた瑕疵」という。代表的なものに柱や梁等の建物の躯体に関わる部分の欠陥、雨漏りやシロアリの被害、給排水管の故障等が当てはまるが、購入前の内見だけでは通常分からない部分である。売主が不具合を把握して、事前に買い手側に伝えてくれればいいが、そもそも売主自身が気づいていないケースもありうる。これまでも個人同士の中古物件の取引の場合、そうした瑕疵リスクへの保険として瑕疵担保責任を売主に課すことはあった。しかしながら一個人に対して引渡した後も長期に保証を強いることは困難であり、一般的には引渡しから3か月程度の保証期間を付すというのが通例であった。つまり引渡しを受けてから3ヵ月以内に見つかった瑕疵については売主がその補修費用を負担するというものだ。
現在では2020年4月の民法改正に伴い、瑕疵担保責任は契約不適合責任と改め、買主側の請求できる権利が一部拡大されている。瑕疵担保責任と契約不適合責任の違いについての解説は別の機会に譲ることにしたいが、いずれにしても保証期間は依然として引渡しから3か月程度というのが相場であり、買主側にとって安心とはまだまだ言い難く、同時に売主側にとっても経済的、心理的負担となっている。
買取再販物件の強み
そうした中で中古物件のリスクを軽減するものとして注目されているのがリノベーション物件に代表される買取再販物件だ。一般個人が売りに出す中古住宅とは違い、業者が一度物件を買取り、その上でリノベーションを施して再販する業態のため、売主は不動産業者となる。宅建業法では宅地建物取引業者が売主となって一般消費者に売却する場合は、契約不適合責任の負担期間を引渡しから最低2年間以上設けることを義務付けている。さらに契約不適合とまではいえないような軽微な不具合等についても、リフォームされて新しくなった箇所については一定の保証が付くケースがあるなど、新築物件には及ばずとも、入居後のリスクの緩和が図られている。
リノベーション物件は業者にとっても強い味方
こうした買取再販物件は仲介業者にとっても真っ先に顧客に勧めるべき物件である。それは先述の保証の優位性や内見時のイメージの付き易さといった理由のみではない。端的に言って仲介手数料が稼ぎやすいのである。業界で言うところの「片手」か「両手」かという違いだ。顧客を案内して物件を購入してもらった場合、買主から3%の仲介手数料をもらう。客を付けた業者は客付業者である。一方、売主は売り側の仲介業者(元付業者)に3%の仲介手数料を払う。これを「分かれ」の取引きといい、手数料を片方の顧客からのみ受け取るので片手と呼ぶのである。ところが買主・売主の両方から手数料をもらえる場合がある。自身が売主から直接預かっている物件を売った場合は仲介に関わる業者は1社であり、客付も元付も兼ねることになるため、買主から3%、売主からも3%で合計6%の仲介手数料を請求できる。これがいわゆる両手である。買取再販物件の売主は不動産業者であるため、ほとんどの場合、間に余計な仲介業者を介さず売主と直接やり取りすることになるのだ。片手でも両手でも業務内容はほぼ変わらないため、同じ仕事で効率よく手数料が稼げる両手物件は、仲介業者にとって正に砂漠のオアシスである。
潜んでいるリスク
筆者も数多くのリノベーション物件を仲介してきたが、営業マンのオアシスにも稀に落とし穴がある。その時仲介したのは築25年程の中古マンションのリノベーション物件であった。某大手分譲会社の建てたブランドマンションの1階住戸で、広い専用庭が付いているのが特徴的な物件であった。室内は全面的に改装され、床や壁紙はもちろん、キッチンや浴室などの水回りも新品に入れ替えており、床下の給排水管も一新する大掛かりなリノベーションが施されていた。
顧客は40代の夫婦で、K様といった。新築までは価格的に手が届かないものの築浅志向が強く、築10年以内というのが絶対条件という要望であった。今までもかなりの件数を見て回ったが、どんなに綺麗に使っていても所々に他人が住んでいた使用感を感じてしまい気に入る物件がないという。そこでピーンときて、それなら多少築年数が経っていてもリノベーション物件をぜひ見てみてはどうかと提案してみたものの、なかなか腰が重い。そこで仕方なく、ダミーの物件をいくつか案内した後、最後の1件としてどうしても見てほしい物件があるからと半ば強引に連れて行くことにした。筆者のよく使う手である。築25年とはいえ室内は新築同様の内装であり、筆者の狙い通り、K様は一見して気に入ってしまった。
引渡し後に発覚した不具合
契約から引渡しまでスムーズに事が運び、両手の仲介手数料に筆者が気をよくしていた矢先、買主から風呂の水が流れないからすぐに原因を調べてほしいと連絡があった。第一報を受けた時、筆者も、そして恐らくK様も高をくくっていた。この物件は浴室をユニットバスごと交換しておりメーカー保証も付いている、ましてや売主は不動産業者であるから万が一瑕疵担保責任に該当するような不具合が見つかったとしても、2年間は売主に保証してもらえるのである。当時はまだ民法改正前であったため契約不適合責任という言葉はなかったが、引渡しから最低2年間の瑕疵担保期間は確保されていたのである。
早速売主業者に連絡を取り、調査が始まった。ところが原因がよく分からないのである。業者が繰り返し試したがきちんと流れている。汚れが詰まっているわけでもなく、トイレやキッチンと合わせて排水しても問題なかった。さすがに気のせいではなかろうが、K様には一旦様子を見てもらうしかないという結論になった。
瑕疵の意外な原因
1週間ほどして、K様からまた風呂の水が流れないという連絡があった。それどころか今度は逆流して排水溝から水が溢れてくるという。やはり気のせいではない、瑕疵に違いないと今回は少し語気が強い。
再度調査が始まったが、業者が確認に来るとすっかり治まっている。となれば原因はマンションの共用部に違いない。マンションの構造上、専有部の床下を通る排水管は建物の共用部の配管へと繋がり、最終的に公共の下水管へと接続されている。K様の購入した1階住戸も共用の配管を通して排水を行っていた。
果たして原因は専用庭の部分を通っている共用の下水管に問題があることが分かった。つまり住戸から共用管へと繋がる配管の傾斜角度が弱く、水が流れにくくなっていたのである。今回K様がお風呂に入った夜の時間帯は左隣の2軒も同時に水を流しており、本来公共の下水道に流れるべき排水が傾斜の弱いK様の住戸へ逆流していた。業者が確認に来た昼間の時間帯は左隣の住戸は2軒とも水を流しておらず、オーバーフローが起きなかったのである。
瑕疵担保責任の範囲
売主業者の行ったリノベーション工事では床下の配管も新規交換されていたのであるが、それはあくまで専有部分の中だけであり、庭を通る共用部分の配管には手を加えていない。従って瑕疵担保責任の保証の対象も専有部分の中だけに限られるのである。
共用部分の問題に関してはマンションの管理会社もしくは管理組合の方で対処すべき事案だ。実はマンションの場合、専有部分の内側だけのトラブルというのはむしろかなり限定的であり、共同住宅である以上どうしても共用部分も関わってくることが多い。そうなると個別の対処ではなくマンション全体の問題になってしまうのである。
K様のケースでは、リノベーション工事が行われる前に住んでいた住人もセカンドハウスとして所有しており、長らく問題が表面化されることなく放置されていたのである。
誰の責任なのか
管理会社へ対応を引き継いだものの、新築当時の建設業者への確認やマンション理事会の承認手続き等、共同住宅ならではの煩雑さに加えて、補修費用を管理組合の修繕積立金で対応することになり、K様個人の負担は免れたものの間接的にマンション所有者全体で負担することになり、K様はなんとも腑に落ちないという表情だった。加えて、全く生活できないというレベルではなかったが、やはり補修が完了するまでは安心して住めないといって、実費でホテル住まいまでした。新生活の出鼻をいきなり挫かれたものの、怒りを向ける矛先がなく、筆者も同情するより他なかった。唯一、新築当時の建設業者が施工不良になぜ気づかなかったのか疑問が残ったが、25年前の話である。当時の担当者などもすでにおらず、はっきりとした原因は分からずじまいであった。
結局責任の所在も明らかにならないまま、K様だけが不便な思いをした上、余計なホテル代を負担することとなり、K様は度々筆者に向かって「やっぱり中古物件なんか買った私がいけなかったんですね」と嫌味を漏らした。筆者はその度にうつむくことしかできなかった。
万能ではない保証
中古物件に限らず新築住宅においても不具合やトラブルはどうしても起こりうるものである。またどんなに保証を手厚くしても全てをカバーしてくれるわけではない。残念ながらそれは事実だ。営業マンとしてできることは、その事実をしっかりと説明した上で少しでも後悔のない物件選びを手助けすることだけなのである。購入検討者においてもそうした入居後の保証の内容についてはいい加減に聞き流し勝ちだが、事前にしっかり確認しておくことが何より重要である。
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