こんにちは。へんてこ不動産調査室です。
当ブログは、筆者が過去に実際に取扱った、奇怪な土地形態、奇天烈な権利関係、不可思議な売却経緯をもった「へんてこ不動産」をプロの不動産屋の視点から紹介、解説していくブログです。
さて、今回は・・・。
空き家問題と並んで増え続けている空き駐車場問題
不動産業界において近年、空き家問題と並んで大きな問題となっているのが、マンションの駐車場利用率が年々減少している空き駐車場問題である。かつてマンションの建築計画において駐車場の確保はとても重要視され、専用使用権付き住戸が人気を博したり、少し郊外の物件になると敷地内駐車場の設置率100%のマンションが多く造られたものだが、近頃の車離れは若者だけのトレンドにとどまらず、カーシェアの普及に加えここ数年のガソリン価格の高騰などで車を手放す中高年層も着実に増加しており、車離れが一層加速している。
そのため建築当時に駐車場を確保するために敷地の大部分を割いたにも関わらず、利用者が著しく減ってしまいマンション自体の運営に支障をきたし始めている事例も出てきている。
駐車場収益は管理組合のもの
分譲マンションの運営において駐車場利用料の収入は大変重要であり、その収益はすべて管理組合に属している。機械式駐車場の場合は駐車場自体のメンテナンス費用に充てるほか、余剰分のほとんどは建物の大規模修繕積立金に組み込まれる。つまり駐車場収益が計画通りに上がらなければ先々の修繕計画にも多大な影響が出てくるのである。
先に述べたような車離れの波は個人のみならず企業においても同様であり、今や居住用のマンションだけでなくテナントが入る商業ビルの駐車場でも駐車場収益が上がらずに困っているテナントビルは決して珍しくないのが現実である。
自治体でも徐々に対策に乗り出すが・・・
こうした実情を受け対策に乗り出す自治体も出てきている。かつて駐車場不足が叫ばれた時代に、多くの自治体で駐車場の付置義務が設けられた。自治体が駐車場整備を促進する地区を定め、その地区内で一定規模以上の建築物を新築する場合に、その建築物の床面積に応じて敷地内に駐車場を設けることを義務付ける制度である。あるいは建築基準条例において設置率を定めている自治体も多いが、近年そうした付置義務を緩和する動きが拡大している。
わかりやすい例で言えば、神奈川県横浜市の場合、延べ床面積が1,000㎡を超える共同住宅を建てる際は、戸数に対して20%~50%(用途地域による)以上の駐車場の設置が義務付けられていたが、2023年1月から設置率が10%~30%以上に緩和された。
とはいえ、こうした規制緩和の動きはこれから建築される建物への対策であって、難しいのは既存のマンションに対する対応策をどのように探るかである。
機械式駐車場にありがちな課題
機械式駐車場が埋まらない大きな要因の一つに車両サイズの問題がある。一昔前に比べて車両の大型化が進み、機械式駐車場の許容サイズに収まらなくなってきているのである。昔の人気車種といえばどのメーカーでもセダンタイプが人気だったが、今ではミニバンやSUV等の背の高い車種が増え、軽自動車においてもワンボックスタイプが圧倒的に人気である。敷地内の駐車場に停めたくてもサイズが合わず、仕方なく外部で借りている世帯も相当数いると思われる。古いマンションではこうした機械式駐車場が収益を生まないどころか、メンテナンスにばかりお金を食うお荷物と化してしまい、マンション運営の足枷となっているケースが増えている。
駐車場区画分譲型のマンション
一昔前によく見られたマンションの所有形態に駐車場分譲型のマンションがある。住戸の分譲に加えて駐車場区画も区分所有権として住戸とセットで販売された。購入した権利取得者は自身で使ってもよし、外部に貸し出して賃料収入を得ることもできるというものである。ただし、管理費や修繕積立金・固定資産税は駐車場持分の割合に合わせて負担が生じるという仕組みである。
こうした形態のマンションは特に駐車場を持て余しているケースが多い。筆者のもとにも駐車場区画を処分したいという相談に来た顧客がいる。そのお客様はE様といって同じマンションの住戸を5戸保有していた。ファミリー向けのマンションであったがバブルの頃に投資するつもりで新築時にまとめて購入して、自身は別の住居に住みながら5戸とも賃貸に出していた。住戸の方はそれでよかったが、機械式駐車場も5区画持っており、すべてが空きの状態であった。駅から近い物件であったために、駐車場を利用しない住民が増え、ここ数年の間ずっと空きになっており、管理費や修繕積立金ばかりかさんでしまって困るので、駐車場区画だけ処分できないかという相談であった。
誰に売ってもいいわけではない
ところが、この計画はいきなり出鼻を挫かれてしまった。駐車場も区画ごとに区分所有権として所有しているので、E様は当然自由に売却できるものと思っていたのだが、マンションの管理会社に確認すると、外部の人に貸し出すことは認めていても、売却するのはマンション内部の区分所有者に限定されるというのだ。しかしそのようなことはマンションの管理規約で定められているわけでもなく、新築当時の契約書にもそんなことは一言も謳われていない。理由を問いただすと、駐車場だけの区分所有者が今後増えていくと管理組合としての収拾が付かなくなってしまう恐れがあるというのである。少なくとも理事会の承認を得てからでないと許可できないという。
にわかに雲行きがあやしくなり、ただでさえ借り手が着かない駐車場なのに、マンション内でわざわざ購入する人が現れるだろうか。仕方なく一旦理事会の審議を待つこととなった。
理事会からの通達
そもそもこの機械式駐車場は車両の許容サイズに難があった。約30年前の駐車場だったが、初めから中型セダンしか入らないような設計なのである。全長4700mm、全幅1700mm、全高1500mm、重量1500kgと、近年人気のSUVはおろか軽のワンボックスでも高さがつかえてしまう。セダンの中でもクラウンのような3ナンバーはまずもって入らず、5ナンバーがやっとというサイズ感であった。
こんな駐車場が果たして売れるのかいよいよ不安が募っていたところに、管理会社から連絡が来た。理事会で審議した結果、やはりマンション外部に売却することは望ましくない事。さらに、駐車場設備の老朽化が著しいため早急に修繕を行う必要があり、機械を入れ替えるのに約2,000万円必要で、その修繕費用は駐車場所有者が分割して負担とすることに決定したというのである。
駐車場は全部で20区画、つまり1区画につき100万円の負担であるから、そのうち5区画を所有するE様は単純に言って500万円の負担である。
開けてしまったパンドラの箱
思いもかけず急に降って湧いた話にE様は明らかに慌てた様子であった。赤字の駐車場を手放そうと掛け合った結果、反対に500万円もの修繕費を徴収されては堪らないと、とにかくタダでもいいから貰ってくれる人を探してほしいと言う。しかし、マンション内で修繕費用が掛かることが知れ渡ってしまった以上、この期に及んで駐車場を欲しがる住人は皆無だった。むしろ駐車場を所有する他の居住者もこれを機に手放せないかと相談に来る始末で、E様をはじめ駐車場所有者はそろって頭を抱えてしまった。
解決方法の模索
今やE様は駐車場を手放せればそれでよかった。そこで一計を案じて5台分の持分を他の所有者に寄付することを管理組合に提案することにした。つまり残り15名の駐車場所有者に5台分の持分を分け与えた上で、機械式駐車場を15台に縮小してリニューアルするのはどうかという提案をしたのである。規模が小さくなれば入れ替え費用も安くなる上、1台毎の車両サイズも大きくできて、他の所有者にもメリットが生じるのではないか、というわけである。
この提案は管理組合で審議されることになったが、後々試算した結果、機械式駐車場は台数が減れば単純に安くなるというものでもなく、返って頭数が減る分、一人当たりの維持管理費は増加する上、固定資産税も増えてしまうことがわかり、他の所有者からの同意が得られるかが難点であった。
他にも問題点が発覚
また単純に寄付と言っても、そう簡単な話ではないのである。区分所有権を無償で譲渡するとなるとそれは贈与であり、贈与を受けた側には贈与税が発生する。5台分の持分を15名で分けるので、決して大きな贈与ではないが、それでも固定資産税評価額から試算した結果、十数万程度の贈与税がかかる計算であった。加えて登記の名義を書き換えるための所有権の移転登記費用も考えると、タダとはいえ受け取る方は20万円程の出費を強いられることになってしまうのである。
さらに条例違反の建築物になる可能性も
さらに問題となったのは、駐車場台数を減らすことで、建築基準条例に抵触する可能性があったことである。このマンションは戸数がちょうど100戸のマンションであり、建築基準条例に照らすと戸数に対して20%以上の駐車場区画の確保が必要な地域であった。だからこそ新築当時に20台の駐車場区画が設けられたわけだが、それが15台に減ってしまうと建築基準条例違反のマンションということになる。
これについては自治体の建築指導課に直接問い合わせをしてみた。築後30年以上が経過しマンションの住民事情も変化している中、実情に合わせた設備改修を行った結果として条例に合致しなかった場合どうなるのか、と。回答はこうである。建築指導課としては条例を遵守して建築してもらうよう常に指導を行っているが、守られていない建築物も実際には存在し、それらに対して具体的な罰則等を課してはいない。しかしそうした建築物には定期的に条例遵守を促す配布物などを配って周知を行っている、というのが回答であった。罰則こそないが定期的に通知が来るというわけである。
これはあくまで一自治体の例であり、自治体によってそれぞれ対応は異なると思われる。マンションの理事会においてもこのことは議題となったが、マンション全体の資産価値の観点から、現行の条例に抵触してしまう提案には反対する意見が多く、このことが決め手となってE様の提案は正式に却下された。
解決策は未だ見つかっていない
様々なハードルが見つかった結果、実はE様のマンションの駐車場問題はいまだ未解決のまま、棚上げされてしまっている。とはいえ、老朽化した駐車場を放っておくわけにもいかず、管理組合において繰り返し議題に上っては、全員が納得できる解決案が今も見つからないのだという。
このマンションのように実情に合わなくなった設備を抱えたまま、手を付けることもできず身動きが取れなくなっている現状は決して他人事ではなく、将来ますます増えていくことは間違いない。
こうした問題に共通解などなく、それぞれの事情に合わせて解決策を探るしかないのであるが、先述した条例等の規制緩和の推進も事態打開への一歩ではないだろうか。今後の都市計画においてより重要になるのは、画一的に建てては壊す都市設計ではなく、都市の持続を目指して多様化する生活形態を汲み取りながら、柔軟に形を変えられる枠組み作りが求められているといえよう。
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