線状地帯のへんてこ

こんにちは。へんてこ不動産調査室です。

当ブログは、筆者が過去に実際に取扱った、奇怪な土地形態、奇天烈な権利関係、不可思議な売却経緯をもった「へんてこ不動産」をプロの不動産屋の視点から紹介、解説していくブログです。

さて、今回の物件は・・・。

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不可解な線状地帯!道路に取り残された所有者不在の土地

筆者がその物件に出会った経緯はこうである。

あるお客様(A様)から、親が亡くなり実家の一軒家を相続したが、使わないので売却したいとの相談があった。懇意にしていたお客様だったので、一も二もなく引き受けたが、いざ調査してみると不可解な点があった。

まず、角地に存する土地なのだが、接道する一方の道路(公道)が、但し書き道路だった。但し書き道路とは公道・私道の別を問わず、建築基準法上で幅員が狭い等の何らかの事情により基準を満たしていないと行政が判断した道路のことである。見た目は普通の道路であっても、基準を満たしていない以上、建物を建てる際には事前に行政の審査を経る必要がある等、一定の制限がかかってくる。しかしこれは特別なものではない。エリアによっては頻繁に遭遇する事例であり、筆者も過去に取り扱った経験があり、行政との調整の仕方も心得ていた。

問題だったのはもう一方の接道である。現地調査の段階では分からなかったのだが、敷地と道路(公道)との間にわずかな隙間が空いており、その線状地帯を第三者が所有していたのである。面積にして約3㎡、幅にすると約40㎝弱の土地である。その所有者を調べてみるとある法人の名義となっていた。

線状地帯を所有する法人は何者か?

土地の謄本を確認するとF社とある。実はこの会社、元々A様のお父様に土地を分譲した不動産会社であった。実はこうした線状地帯自体はそれほどめずらしいものではなく、一般的にもよく見られる事例であるが、注意しなければならないのは成立の経緯である。セットバックなどの理由で敷地と道路との間に細い土地の筆が生じることはよくあるが、今回の分筆(土地の筆を分けること)はセットバックで敷地後退した筆とは別に、さらに筆分けが行われており、分筆の理由が不明であった。このような形で分筆された線状地帯を見るのは初めてだった。

考えられる理由として、分譲業者名義の筆を残しておくことで、後々も権利の主張をできるようにした可能性である。一昔前の不動産事情として、土地の一部を所有しておくことで長年に渡って通行料を主張したり、本地の所有者が変わるたびにハンコ代を求めたりといった、いわゆる悪徳業者が一定数存在した。急いでA様に購入当時の契約書(契約者はA様のお父様)を見せてもらったが、問題の線状地帯についての説明は一切書かれていなかった。A様にも事の経緯を告げたところ大変驚かれ、お父様からもそうした事情は聞いたことがないとのことだった為、お父様もこの点に関しては認識がなかった可能性が高い。

ひとまずA様とF社との間で妙な取り決めはなかったわけだが、裏を返せばF社ないしF社から権利を引き継いだ第三者が現れた場合、権利の主張がなされるリスクのある物件であることに変わりはない。このような状態でまともに売却ができるのかどうか、A様はその点を最も心配されていた。

第三者所有地を解消する方法はあるのか?

さらに問題をややこしくしたのは、このF社がすでに倒産しており、所有者不在の土地になっていた点だ。筆者が調査を始めた時点でF社が倒産してからすでに7年が経過していた。当時の経営者も破産手続きを行った管財人も、もはやこの土地の存在を忘れており、土地の名義だけが残されてしまったものと思われる。

筆者はまず役所の建築審査課へ相談に行った。というのも、この物件は東側こそ但し書き道路に接してはいるが、北側については公道との間にF社の土地が存しているため、厳密に言えば接道していない状態だったからだ。

未接道と判断されてしまえば、東側の但し書き道路のみで接道要件を満たさなければならず、建築確認を取得するまでに行政の建築審査会を経なければならない等の制限がかかってくる。ところが役所の見解はこうだった。行政の立場からすれば土地が誰の所有かは関知するところではなく、基準通りセットバックがなされ建築基準法に合致する土地であれば、建築の認可を妨げるものではない。つまり認可は下すが、所有者同士で揉めても民民(民間同士)の問題であり、役所は関係ないというスタンスである。それはそれで問題ないとは言えない気もするが、一先ず懸念していた再建築の問題はクリアできそうだ。

しかしながら第三者の土地を通らなければ車の出入りもできない物件であることに変わりはなく、売却する上でネックになることは間違いない。なお、役所の担当者にこうした所有者不在の土地の行政による買い上げができないかも聞いてみた。しかし、そもそも積極的に行政が買い取るという立場は取れず、あくまで寄付を受けるという形でなら受付できるという。ただし、所有権の移転を行う以上、あくまで所有者本人からの申請でなければ難しいとの回答だった。当然といえば当然だが、このような土地の相談は現実に増えてきており、今後全国的にますます解決が求められる事案になるだろうということも話してくれた。

解決方法は二つある

A様はネックのある状態で売却を進めるよりも、解消できるものならきちんと整理してから売却に進みたいとの意向であった。何より今のままでは気持ちが悪いし、次に住んでくれる方にも気持ちよく住んでもらいたいという。私もその意見に賛成した。

考えられる解決方法は二つある。一つは名義人(つまり元経営者)とどうにかして連絡を取り付け、行政への寄付を促すという方法。そしてもう一つはA様自身が買い取るという方法である。ただいずれの方法にもかなりのハードルがあった。

まず寄付の方法については、先ほどの役所の担当者の話にあったように行政側は能動的に動いてくれるわけではないため、すでに解散した会社の元経営者を探す労力は一旦置いておくとしても、測量の費用、道路台帳の更正費、証明書等の取得はすべて名義人側の負担なのである。さらに測量の結果、登記上の面積と差異があった場合は地積更正の登記費用まで負担が生じる。わざわざ過去の遺物を費用負担してまで整理してくれるようにお願いしなければならないのである。

それではA様自身が買い取るという方法ならどうか。A様の考えは、現状のネックのある状態で売却活動するよりもきちんと整理された状態で売却できるなら、価格を強気に出れる分、多少の費用負担は許容するつもりだと言ってくれた。ところが、調査を突き詰めていくと多少の費用ではとても済まないことが分かってきた。

まず買取の価格設定をどうするか。筆者は当初、先方にとってはすでに不要なものであり面積もたった3㎡程度の使い道のない不動産であるから、売買に関わる手間賃に多少の色を付けた価格を提示すれば納得してもらえるのではと安易に考えていた。ところが、税理士などに相談してわかったのだが、あくまで名義は法人であり、一度解散した法人の代表権を回復してもらい、その上で法人から個人への売買を税務上遜色ない形で成立させるためには、客観的に正当な価格設定を行う必要があり、いくらでも良いというわけにはいかないというのである。そうなると客観的に正当な価格とは一体いくらなのか。税理士曰く、路線価を指標にするべきという。そこで路線価を基に線状地帯の価格を算出すると約45万円だった。それだけではない。すでに解散した法人の代表権を回復するための手続きを当時管財人として関わった弁護士にお願いしなければならない。その弁護士に払う報酬や手続きに要する費用に加え、所有権移転のための登記費用や印紙代、さらに測量の費用まで見積もると、約200万円程にまで膨れ上がってしまった。たった1坪の使い道のない土地を買うのに200万円というのはさすがに高すぎる。周辺の土地相場は坪単価60万~70万円程度のエリアなのである。ざっと相場の3倍だ。A様に説明すると頭を抱えてしまった。

さらに追い打ちをかける事実が判明!

費用の問題で頭を抱えていた我々に、さらに追い打ちをかけるような事実が明らかになった。そもそも元経営者はどこにいるのか。閉鎖された商業謄本に記載のある住所を調べたが、すでに表札が変わっていた。そこで当時の管財人を担当した弁護士と連絡を取ることにしたのであるが、ネットで調べても事務所の所在が分からない。弁護士会に問い合わせたところで驚きの事実が判明した。1年程前にその弁護士は裁判で問題を起こし逮捕、弁護士会から退会処分に付されていた。どのような問題で逮捕にまで至ったかはここでは省くが、これで元経営者へ繋がる手掛かりが途絶えてしまった。A様は、問題を起こすような弁護士だから破産整理もいい加減に終わらせたのではないかという感想を漏らされていたが、どうにも打つ手がなくなってしまったのである。

起死回生の逆転劇で大団円の結末に。だが問題は今も残ったまま・・・

仕方なく現状のまま売り出す準備を始めた。A様にはある程度価格を落とさざるを得ないことを覚悟してもらった。販売を始める前に、境界の確認作業でお隣の家(B様)にご挨拶に伺った時のこと、A様のお父様と同年代のB様はご近所付き合いもあった様子で快く敷地に招いてくれ、他愛もない世間話をしていたところ、B様の息子世帯が地方から戻ってくる予定があり、この家では狭すぎて同居は難しいため、近くで貸家を探す予定があるという話だった。そこでA様の家をこれから売り出すことを伝えると、さっそく息子に話してみると言ってくれた。なんというタイミングの良さであろうか。

後日B様から連絡があり、息子も購入に同意してくれ、一旦B様がお金を出し自身の所有とすることで話がまとまった。B様には正直に事情を伝えた。ところがB様に聞いたところ、B様の土地もF社が当時分譲した土地だった。そしてこれは後々になって分かったことだが、問題の線状地帯はB様の敷地と道路の間にもほんの一部入り込んでいたのである。B様にとってはほとんど影響のない程度であるが、B様もこの事実を知らず驚いていた。結果として問題は残したまま、しかしながら大したネックにはならず、互いに納得できる価格で売買は無事成立した。

隣地所有者が購入することで、ネックがそれほどクローズアップされることなく、むしろ地続きで使えるメリットが勝ったわけだが、今回はたまたまタイミングが良かっただけのラッキーパンチだったことは間違いない。そして問題は今も残されたままなのである。役所の担当者のいうように、今後こうした事案が各地で明るみに出てくる可能性もある。行政の主導による、現実に見合わない費用や手続きの煩雑さといった制度の見直しも将来的には必要になってくるかもしれない。

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この記事を書いた人

『へんてこ不動産調査室』室長。
不動産会社勤務の現役営業マンであり、へんてこ不動産コレクター。
全国のへんてこ不動産情報を収集、調査する活動を行っている。

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