接道のへんてこ

こんにちは。へんてこ不動産調査室です。

当ブログは、筆者が過去に実際に取扱った、奇怪な土地形態、奇天烈な権利関係、不可思議な売却経緯をもった「へんてこ不動産」をプロの不動産屋の視点から紹介、解説していくブログです。

さて、今回の物件は・・・。

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土地の価値を決めるもの、それは「接道」である

上記は筆者の今までの経験に基づく実感である。一般的には「エリアの人気度合い」や「駅からの距離」などとイメージする人が多いかもしれない。もちろんそういったことも大きな指標の一つなのだが、当ブログではもう少し専門的に踏み込んだ視点でこの問題を取り上げたい。そしてこの接道(道路付けともいう)の重要性は土地が大きくなればなるほど顕著に表れる。今回取り上げる物件はまさしくその実例といえよう。

一見ただの田舎の土地が‟化ける“

ある付き合いのある不動産業者(A社)からまとまった広めの土地があるのだが、お客さんはいないだろうかと相談を受けた。話を聞くと物件を購入してもらう予定のお客様の自宅で、この自宅を売却する資金で次の物件を購入するという、いわゆる買い替え案件なのであった。この業者はマンション販売が専門の業態のため、戸建ての売却はあまり得意でないという理由で、筆者に相談してきたのである。すでに購入先の契約は済ませているが、半年以内に自宅が売れなければ契約は白紙解除となる停止条件付契約だった。筆者に相談してきた時点で残された時間はあと3か月を切っていたので、担当者の顔には多少焦りが見え始めていた。

話を聞きながらなんとか力になりたいとは思いながらも、資料を見るまでは躊躇していた。というのも一口に言って田舎の物件だったのである。神奈川県内ではあるが郊外の中でもはずれの方で、交通手段は物件から徒歩10分程のバス停から日に数本のバスが出ているのみという、いつもなら目もくれないような物件であった。しかし渡された資料を仕方なく眺めているうちに気が変わった。500㎡以上ある平坦な土地で、建物は古いため取り壊すほかはないが、土地のみで考えても十分に売れると筆者は踏んだ。その場ですぐさま、必ずお客さんを見つけるのでぜひ自分に任せてほしい、その代わり他社には絶対に話を持っていかないようにと強く頼んだ。

一つの広い土地 細かく分けた土地

資料を見ただけで売れると踏んだ理由、それは分割できる土地だったからである。分割できると何が良いのか。一つの広い土地と、それと同じ広さの二つに割った土地を比べた時、どちらが高く売れるかは地域性によるのである。広くまとまった土地が希少な商業系の地域や大きな規模の工場が多い工業系の地域では前者の方が価値が高くなる。一方、低層住宅地など戸建て住宅の需要の高い地域ではあまり広すぎても使い道がない。むしろ一般的な2階建住宅(3階建住宅の多い地域もある)が建てられる程度の広さで戸数を増やした方が断然価値が高いのである。

敷地分割の鍵となるのが「接道」

敷地分割を考える際、キーポイントとなるのが接道状況である。そもそも大前提として建築基準法では、建物を建てる際は建築基準法で定められた道路に敷地が2m以上接していなければならないというルールがあり、接道が2mに満たない土地上には原則として建物は建てられない。一方、接道部分が長ければ長いほど敷地を細かく分割し、建物をたくさん建てることもできるわけである。

よくある敷地分割の例

しかしこうした土地の分割を検討するには少なからず技術がいる。単純に「ぶつ切り」できる土地であればそれほど難しくないのだが、必ずしもそうした土地ばかりではなく、今回の物件は道路からどんつきの少しいびつな形状だった。それでも筆者の見立てでは少なくとも3つには分けられる計算であった。

現況

この土地を3つに分割するにはかなり高度なテクニックが要る。役所に開発許可を得て新たに道路を設ける必要があるのである。開発許可を受けるには様々な条件をクリアしなければならず、物件の所在する自治体によってその条件は一つ一つ異なる。ここでは細かい説明は割愛するが、この地域では接道する道路の幅が4.5m以上ある事が必須だった。その上で敷地面積を1区画につき100㎡以上確保するなど、いくつかの条件を満たす必要があったが、それでも筆者の見立てでは少なくとも3つには分けられる計算であった。

分割のイメージ

3宅地として戸建ての分譲業者にまとめて買取りを依頼すれば、道路を新設する工事費用などを差し引いても、1宅地として売る値段の2倍以上の値が付くことは間違いない。

とっさにこうしたイメージを思い浮かべるにはある程度慣れが必要であり、不動産業者といえどもなかなかできることではない。まして相談してきたA社はマンション販売専門の業者のため、こうしたノウハウはなくて当然の話なのである。

筆者が当時在籍していた会社では戸建ての分譲事業を行っており、こうした土地開発も経験があった。今回の物件はエリア的に自社で買い取ることはできないが、筆者はたまたまこのエリアを得意とする建売業者と懇意にしていたのである。このB社に話を持ち込めば上手く事が運ぶはずである。

油断が生んだ思わぬ落とし穴

B社が周辺相場の2倍の単価で買い取るという条件を提示し、さらにA社・筆者にもそれぞれ相応の手数料を出すという算段で話がまとまった。小躍りして喜んだのは売主である。広い庭を持て余してここ数年ろくな手入れもせず、ほとんど荒れ果てていた古い一軒家に思いがけず相場の2倍の値が付いたのだから、無理もないことであろう。A社の担当の喜びもひとしおだった。これで購入先の契約も滞りなく続行できるというわけである。

意気揚々と契約の準備を進めていたのだが、思わぬところで問題が生じた。測量士に土地の測量を依頼したところ、道路との接道の長さが4.5mにわずかに足りないというのである。筆者は「そんなはずはない。道路幅が4.5mあることは役所の資料でも確認済みだ。」と息巻いた。道路幅が4.5mなのは間違いなかった。しかし道路と敷地の接している部分が10㎝程ずれており、接道の長さに誤差が生じていたのである。

測量の結果

思い込みという盲点

有り得べからざるミスだった。すでに現地に何度も足を運んでいたが、これまで気が付かなかったのだ。それどころか筆者をはじめ今まで誰一人このことを疑いもしなかったのである。

原因は思い込みである。道路と敷地の境界線がちょうど市境だったため、道路関係の資料はC市から取得し、物件の敷地についてはD市の役所から取得していた。それらをつなぎ合わせて使っていたために生じた単純なミスだったのである。加えて現地は草の生い茂った状態で境界杭も残っていない状態だった。

こうなると土地の分割計画は完全に振り出しである。せめて2つに分けられないか検討したが、なんともおさまりが悪くなってしまい難しかった。わずか10㎝の誤差が明暗を分けることとなった。

やむなく1宅地として売り出すことに

一度高い値段を聞いてしまっている以上、諦めきれないのは売主である。代わりに同じ価格で買ってくれる顧客をなんとしても探してほしいと懇願されたが、もともと辺鄙な場所の、今や無駄に広いだけの土地となってしまったのである。筆者にとっては管轄エリア外でもあり、難航が予想された。

購入先の停止条件の期限も迫る中、顧客を探す思案に暮れていた矢先、B社から連絡が入った。残念ながら自社で買い取ることはできなかったが、代わりに顧客を紹介させてほしいという。物件の近所に住む家族がたまたま住み替えを検討しており、広めの土地があるという話をしたところぜひ検討したいというのだ。まさしく渡りに船とはこのことだった。

早速売主にも連絡を入れ、もはや前回の価格にこだわっている場合ではない、数少ない検討者を逃す手はないということをA社の担当と一緒になんとか説き伏せ、周辺相場の単価と同等の価格でも了承してもらうところまで持ち込むことに成功した。

さらに意外な事実が判明

検討している顧客はとても感じのいい若い家族で、小学生のお子さんが二人いた。学区の兼ね合いがあり近所で広めの一軒家を建てたいという希望なのであった。将来は親を呼んで二世帯で暮らすことも想定し、広い土地を探していたのである。これ以上条件の合った顧客は想像出来なかった。物件も気に入った様子で、とんとん拍子に話が進み最終的な契約の条件を詰める段になって、ふと若い奥さんが声を低めてこう言った。

「聞きづらい話なんですが、私の地元もこの辺りだったので覚えているんですけど、昔こちらのお庭で首吊り事件がありませんでした?」

その場にいた全員が呆気にとられて固まっていた。筆者もA社の担当も売主からそんな話は聞いていない。「そうなんですか?」と売主を振り返ると、売主自身もポカンとしていた。

売主にとっては泣きっ面に蜂

蓋を開けてみるこういう事だった。約15年前に物件の庭にある倉庫の中で全く見ず知らずの第三者が首を吊っているところが所有者によって発見された。まだ息があったため救急車を呼んで搬送したが、間もなく病院内で亡くなったという事件がこの近所で話題となった。その数年後、この所有者も亡くなり、相続によってこの物件を取得したのが今の売主なのである。事件当時、売主自身はまだここに住んでおらず、知らなかったのも無理はない。またこうした告知事項に明確な規定がないため各業者の判断に委ねられている部分が多いが、物件内で亡くなっているわけでもないため、仮に知っていたとしても告知すべき内容かどうか、判断に迷う事例である。

事の経緯が分かってくるにつれ、凍りついた時間が再び流れ始めたところで、若い奥さんはこう続けた。

「でも、だからといってそれを気にして購入を渋ってるわけじゃないんです。ただ、そういう物件を買って本当に大丈夫?っていう声もあったりして…、つまり、もう少し買いやすくならないかしら。」

その場に反論できる人間はいなかった。売主は半ば諦めた様子でうなだれてしまった。最終的なお返事は後日という事にして、若い家族は帰っていったが、背に腹は代えられない状況である。価格以外はこちらの条件を飲んでもらうことにして、値引きを了承することで最終的な決着がついた。

プロになるほど気にする「接道」

今回はお粗末な失敗談として紹介した接道の問題であるが、物件の規模が大きくなればなるほど重要性を増すのがこの接道なのである。それは土地の分割方法に関わるだけでなく、容積率や建物の斜線規制といった様々な部分に影響を及ぼす要素だからなのだが、その全てを語り尽くすにはとても紙面が足りない。しかしその重要度の高さから、当ブログでも度々取り上げる機会が出てくるはずである。不動産のより深くを覗いてみたいというコアな読者は今後の記事もぜひ期待されたい。

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この記事を書いた人

『へんてこ不動産調査室』室長。
不動産会社勤務の現役営業マンであり、へんてこ不動産コレクター。
全国のへんてこ不動産情報を収集、調査する活動を行っている。

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